「アメリカの抱える生命科学研究のジレンマ」 おすすめ度:
投稿日:2006-02-12
最初は、細胞分裂の回数には限りがあるという今日の定説「ヘイフリック限界」を発見したレオナルド・ヘイフリック博士の話で始まる。ヘイフリック限界が生命科学のパラダイムに登場したことで、老化学におけるブレークスルーが次々と起きた。その典型が「テロメア」とよばれるDNA末端部分についての知見だ。テロメアは細胞分裂のたびにすり減り、寿命の存在を決定づけるといわれている。
ただ、ヘイフリック博士は、そのあとの人物の引き立て役に過ぎない。話の主役は、マイケル・ウエストという起業家にバトンタッチされる。ジェロン社の初代社長としてテロメアによる不老薬の開発を掲げ、一時期この企業の株暴騰を引き起こした。ウエストは、生命科学研究者に次々声をかけて自分の味方に引き入れるが、社内対立から自ら起こした企業を去る羽目になる。
登場人物が多く、誰が誰かを把握するのが大変。大きな論点が二つあるから、それを足がかりに読むといいかも。一つはテロメアは本当に長寿と関係しているのか。もう一つが、クライマックスにかけての幹細胞研究は許されるのか、だ。
幹細胞とは成長すると皮膚、筋肉、臓器、骨、神経などに形を変える変幻自在な細胞。幹細胞で臓器が作られれば、臓器移植などははるかに楽なものになる。この幹細胞を作るには、体の細胞核と卵子をドッキングさせて、胚という分化する前の細胞を発生させることが近道となる。だが、この胚にもすでに人間の生命が宿っていることにならないか。これこそが、さまざまな倫理観からなるアメリカの抱える大きなジレンマである。
医療の躍進を盾に幹細胞研究を推進したい科学者たち。胚に宿る生命の芽が摘み取られるとして研究禁止を求める宗教団体。双方の主張にたじろぐブッシュ大統領。三者の立場を膨大な主題で描き出している。
「現代の錬金術といったところか」 おすすめ度:
投稿日:2004-02-22
アメリカでのバイオ産業の実情が一人の人物の行動を通して、実によくわかる本。
あのころブッシュはそんなことにも気をもんでいたのかと、少しは同情の一つでもしたくなる。彼にとってこの手の判断は荷が重すぎるだろう。実際、どんな判断をしたところで、先行者利益がどこに行くのかの違いだけで結果は変わらないだろう。
著者自身もも感銘を受けたような記述のある、ゴードン・スミス議員の証言が、この本で唯一、感銘する所であろう。他は素直に興味をそそられ面白い。何事に関しても、とことん考えてみようというアメリカの国民性はたいしたものだ。『クローン人間』などというイメージだけの言葉が先行して、実態を知らずに「臭いものには蓋」方式で禁止してしまっては日本がこの分野で先行することはもちろん、追従することさえ難しい。まあ、そのおかげで、研究者が過激な人に銃で攻撃されることもないのだが。
とにかく、面白く読めました。星4つ。