「自明性を突き崩すこと」 おすすめ度:
投稿日:2006-05-09
本書は既出の論文を集めた論文集の体裁をとっているので、内容はそれぞれ独立している。私が特に関心を持ったのは、第二章「真理・ニヒリズム・主体」と第三章「偶然性の精神病理」であった。どちらも「意識」あるいは「現実」あるいは「存在」あるいは「真理」の自明性を突き崩すことに眼目が置かれている。現象学はいかにして人間の現実が構成されるのかを考える哲学だが、著者は精神病患者の現実がいかにして構成されているのかに光を当てる。
上の二つの論文は、ニーチェ「力への意志」「永遠回帰」、フロイト「死の欲動」の概念を軸に、ハイデガー、ヴァイツセッガー、西田幾多郎などを横断して、我々が構成した自明性を「虚構」あるいは「無」へと還元する。
人生を虚しく感じている人のその虚しさも、虚構の上に構成されているものではあるが、しかしそういった「感じ」がリアリティを与える以上、いくら明晰な論理でも、というか論理だけでは人は現実の認識を変えることができないのも事実である。それはもちろん無いものねだりなのだが・・・。