「包括的な生命倫理法を提示する野心的な書」 おすすめ度:
投稿日:2003-02-12
本書は、総合研究開発機構 (NIRA) による「21世紀総合研究プロジェクト」のもとでなされた「クローン技術等の生命科学の発展と法」という研究の報告である。11人の研究者による共同執筆であり、その代表者である川井健氏は、はじめに二つの問題提起をする。第一に、生命科学の発展とともに、生殖補助医療、クローン、親子関係という3つの領域が大きな問題を抱えているが、これらは一元的に考察されるべきなのではないかという問題、第二に、生殖補助医療とクローンとの扱いを定める原理とされる「人間の尊厳」を掘り下げて考える必要があるのではないかという問題である。(5頁)
本書の構成は以下の通りである。第一部において、「人間の尊厳、母体の保護及び子の利益の尊重を基調」(9頁)とした「生命倫理法試案」を提示し、第二部において、この3領域各々について検討するとともに、それらが分かちがたく結びついていることを提示する。そして第三部では、国外での規制のありかたをサーベイする。
私の感想だが、第一の問題提起に対して本書ではそれなりの具体的な答えが示され、参考にするべき点も多い。だが、第二の問題提起に対して、本書で掘り下げた議論はなされていない。川井氏は、クローン人間に反対するさいに挙げられる「人間の尊厳」の内実として、「おそらく、個々の人は、この地球上において、唯一無二の人格をもった個性ある存在であって、人為的に科学の力を借りて、その自然的秩序を破壊することは許されない」(30頁)という考えを想定している。しかしクローン人間もまた唯一無二の人格をもった個性ある存在ではないのだろうか。ちなみに、こうした意味での人間の尊厳は、いかなる意味で生殖補助医療を規制する枠組みとなるのだろうか。「人間の尊厳」は試案の基調でもあるだけに残念だ。